ハンク・ポールソン元米財務長官の回顧録を読んでいます。彼は、2000年代初頭にゴールドマン・サックスのCEOを務めた後、2006年から2009年まで米国の財務長官を務めました。その任期は、リーマン・ブラザーズの破綻と重なります。リーマンブラザーズの破綻は資本主義の崩壊を危惧させるほどの衝撃を与えました。
リーマン・ブラザーズが破綻した背景を簡単に説明しますと、2000年代初頭のITバブルの崩壊と9/11テロによる経済の冷え込みを受けて、当時の米中央銀行総裁アラン・グリーンスパンは金利を下げるなどの金融政策を実施しました。その結果、不動産バブルが発生し、高リスクのサブプライムローンが流行しました。NINJA(No Income, No Job ,No Assets)ローンという名の下で、収入も職も資産もない移民たちへの貸付けも行われました。
投資銀行は、これらのサブプライムローンを証券化し、CDO(複数の証券を組み合わせた金融商品)に変えることでリスクを隠し、表向きは『複数の証券が混ざっているため安全』としましたが、実際にはCDOに含まれる多くの証券が低品質で、下落時にはリスクの相関が高まり、分散効果はほとんどないです。高格付けされたこれらの商品は世界中の投資家によって購入され、その後、金利が上昇し不動産バブルが崩壊すると、サブプライムローンが焦げ付き、世界中の投資家や銀行等の金融セクターが多額の損失を計上しました。大手投資銀行の中でも特に、借金の比率が高く、サブプライムローン関連商品に大きくのめり込んでいた、リーマンブラザーズは難局を乗り切ることができませんでした。アル・パチーノ主演の『スカーフェイス』という映画にて『自分の売ってるヤクでハイになるな』という言葉が出てきますが、投資銀行は自分の売ってるヤクでハイになって、破滅しました。
リーマンショックについては、それぞれ異なる道を選んだ投資銀行達、投資詐欺が発覚した大物ファンドマネージャー、金融危機で大儲けした一部のアウトサイダー、政府や中央銀行、クオンツヘッジファンド、等々様々な視点から観察することができます。どこの視点から見ても充分に面白いです。
今回は、投資銀行の最前線から政府の最前線へと歩を進めたハンク・ポールソンの視点から、刮目してみようと思います。